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ゼロエネ住宅と蓄熱

ゼロエネ住宅と蓄熱

平成28年度第1回    ゼロエネ住宅と蓄熱

環境・資源科学研究所  所長 神本正行

はじめに

『JXエネなど11社 蓄熱材料、評価法を規格化 「ゼロエネ住宅」を普及』

これは2016/10/8付 日本経済新聞朝刊に掲載された記事のタイトルである。JXエネルギーや住友化学など11社は電気代が実質ゼロの「ゼロエネルギー住宅」の普及に乗り出し、冷暖房の抑制につながる住宅向け蓄熱材料で日本独自規格をつくると書かれていた。「ゼロエネルギー住宅」の主要技術として蓄熱が位置付けられていることは、かつて蓄熱の研究を行っていた私にとって、蓄熱技術もようやくここまで来たかという気持ちである。

この機会に改めて蓄熱の意味を考えてみたい。

エネルギー貯蔵はなぜ必要か

熱や電気といったエネルギーを蓄えるという操作自体は、通常エネルギー損失を伴う。図1に示すように、エネルギーを貯蔵しそれを取り出す過程でエネルギー形態の変化を伴い損失が生じるのである。また貯蔵期間においても放熱や自己放電という形でエネルギーが失われる。

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図1 様々なエネルギー貯蔵法におけるエネルギー形態変化

 

それにも拘わらずエネルギー貯蔵が必要とされる第一の理由は、エネルギーの供給と需要の間に時間的ずれがあるからだ。太陽熱を夜も使おうと思うと、太陽熱で温めた温水を昼の内に蓄えておくなどしておかなければならない。太陽光発電や風力発電も、日射や風速の変動によって出力が大きく変動するため、独立したシステムでは電力を貯蔵し需要に合わせて使用することが不可欠だ。

 

蓄熱の歴史(1970年代以降)を振り返る

第一次オイルショックを契機として1974年に始まった新エネルギー技術開発の国家プロジェクト「サンシャイン計画」では、冷暖房給湯用や産業利用の太陽熱利用と太陽熱発電の開発が進められた。これらの研究開発では様々な蓄熱技術が取り上げられ、水や土中への顕熱蓄熱(物質の温度上昇を利用)、無機水和塩や有機物、溶融塩を用いた潜熱蓄熱(物質の相変化に伴う潜熱を利用)の実証が行われた。太陽熱利用と太陽熱発電はわが国では下火となったが、氷蓄熱やエコキュートが普及した。

家庭用燃料電池は他の国に比べ我が国での普及が進んでいる。家庭用燃料電池は典型的なコジェネレーション(熱電併給)システムである。コジェネレーションは熱と電気の需給を合わせるために、通常は電気あるいは熱の貯蔵が必要とされるが、家庭用燃料電池の場合は温水の貯蔵が行われている。家庭ではエネルギーの多くは熱として使われている(図2【参考文献1】参照)ので、蓄熱がもっと利用されても良いのではないかと思う。

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図2 我が国の世帯当たりの用途別エネルギー消費【参考文献1】

 

20年近く前、「蓄熱技術」の解説を化学工学(化学工学会の会誌)に寄稿したことがある【参考文献2】。当時は蓄熱式電気ヒーターが家電製品のヒット商品の一つで、潜熱蓄熱を利用したコードレスアイロンはもっと前に商品化されていたように思う。その解説で紹介した当時提案されていた蓄熱の応用例を表1に再掲する:

表1 蓄熱の様々な応用分野【2】

  • 負荷平準化やパッシブソーラー用の壁板
  • 太陽光の一部を照明用に透過させ、一部で潜熱蓄熱材料を暖め夜間の暖房に利用する外壁
  • 家庭や事務所用の小型氷蓄熱装置
  • MgOと硝酸塩を用いる深夜電力による高温蓄熱
  • 温度上昇を緩和し限界送電容量の増加を実現するための潜熱蓄熱材料で被覆した電力ケーブル
  • 回転蓄熱式再生機を用いた高効率燃焼器
  • 宇宙太陽熱発電用蓄熱:LiF, LiH
  • 磁場閉じ込め核融合(トカマク)用のFLIBE(フッ化物系溶融塩)による蓄熱
  • 自動車起動時の触媒の急速加熱用潜熱蓄熱
  • ヒートエンジンやヒートポンプとの組み合わせ
  • 潜熱蓄熱材料で被覆した繊維
  • オプティカルネットワーク機器を太陽熱などから保護する目的で、内側に潜熱蓄熱材料を配置する容器
  • 道路のミラーの曇りをとるための潜熱蓄熱の利用