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想定外の発生は予想できるか?

平成26年度活動報告 第3回「想定外の発生は予想できるか?」

環境・資源科学研究所  次長 三宅淳一

1.想定外のいろいろなできごと

いささか恐縮ながら、今回は私の身の回りに起きてきたいろいろなハプニングを材料に、この文を書かせていただきます。

私は電力会社に勤務しています。入社以来、発電所の設計や建設、また、主にコンクリート関係の研究業務に従事してきておりましたが、2011年12月より、一転して、中部地区の水力発電所の保守・管理を統括する職に異動となりました。

静岡、愛知、岐阜、福井、石川の各県に存在する水力発電所15ヶ所、変電所1ヶ所が対象で、具体的には日常点検の他、水車発電機の分解点検といった大規模な作業、耐用年限がきた設備や部品の更新、洪水時の洪水吐ゲートの操作、土木・建築設備の補修工事や、老朽化した建物の新設による更新、貯水池にたまった堆砂の除去作業…と多岐にわたります。また、独身寮や事務所の清掃や食事提供といった業務も私の守備範囲でありますので、私は社員約200名のみならず、パート、アルバイトさんも含めると約300名の人々、また、恒常的に契約関係にある協力会社の関係者を入れると、たぶん400名を超える皆さんと関係を持っていることになります。

このくらいの規模になりますといろいろな予期しない出来事が起きます。

例えば、

・ 作業に伴う労災事故。最近では、工事現場の上方の山の斜面から石が落ちてきて、作業している人に当たって怪我をする事故が発生しました。斜面にネットをかぶせていたのですがそのはるか上から落ちてきたようです。

…全部の斜面に落石対策をすれば防ぎ得るとはいえますが、大して大規模でない工事のために、広い斜面全体に対策することは現実的とはいえません。

・ 発電所に行く細い道で、カーブミラーにダンプが映ったので停車していると、そのダンプが正面からに突っ込んできた。

…相手の運転手のよそ見です。幸い双方とも怪我なし。

・ 貯水池に二人の水死体が浮いた。

…心中です。

・ 送電線に落雷して発電所側に伝わり、発電所の大きな変圧器が故障した。

…落雷は発電所の天敵ですから、雷の侵入を防ぐ装置は5重にも6重にもかけてあるのですが、この雷はそれらをかいくぐったものでした。「そんなことがあるのか!」というのが担当者の第一声。

・ ある土木工事で雇っていた派遣の技術者が朝の出勤前に心臓の病気で倒れ、救急車で運ばれました(大事には至りませんでした)。それと同じ日の午後、同じ工事現場のクレーンの運転手が急激な腹痛におそわれ、救急車で朝方と同じ病院に運ばれました(これも腸の炎症で、大事ではありませんでした)。

…こんなことが重なりますかね。救急車を呼ぶなどということは通常なら1年に1回もありません。

・ 過疎地の発電所では調理をしてくれる人を確保するのが大変です。やっと雇えた調理人さんが自宅の庭で草取りをしていてマムシにかまれました。血清を打つのに時間がかかったらしく、後遺症で立ち仕事が無理になり、1ヶ月半で退職してしまいました。

…マムシのせいで退職と聞いた時には、何たることかとわが耳を疑いました。

・ つい最近では、通勤途上の社員が交差点での停車中にダンプに追突され、頚椎を痛めたという労災事故がありました。

…もらい交通事故は想定外できごとの典型です。

などなど。

最初のうちは、手帳にメモしていたのですが、あまりに次から次におきるので、パソコンでの整理を始めました。

2.想定外の発生頻度に法則はあるか?

1年あたり約50回余り、現在の勤務を開始した後のこれまで1080日で160回の想定外事象が記録されました。判断基準は私が驚きを感じたかどうかということです。

起きる時には前記の救急車のように1日に2度起きたり、連日起きたりします。まさに、「二度あることは三度ある」といったところです。最長で28日間起きなかったということもありましたが、起きるときには固まって発生し、ちょっとお休みがあって、また、何回かまとめて起きる、を繰り返しているようで、1週間、長くても10日に1回は必ず起きると感じていました。

機械の故障のような事象は、ワイブル分布という確率分布でその発生頻度が整理できると聞いたことがあります。私の場合は多種多様な想定外事象ですが、なんらかの法則のようなものがあるのではないかと思い、とくに発生頻度についていろいろと整理をしてみました。

まずは、横軸に勤務開始日からの経過日数、縦軸に累積の発生回数をとったグラフを作ってみました。それが図-1です。

zu2015022701.jpg図-1 経過日数と累計発生件数の関係

朱線が実績、青の直線が近似です。実績はやや波打っていますが、まことに美しく直線で近似できています。相関係数の二乗の決定係数が0.9947ですから、相関係数は0.997と非常に高い。これは、発生間隔は一定ではないながらも、やや長い期間内での発生回数は一定であること、すなわち、私の勤務期間内を通じて、ほぼ同じペースで想定外のできごとが起きていることを意味しています。係数は0.1616回/日ですから、約1回/6.2日ということになります。こうなると、想定外のできごととはいえ、なにかの法則に拠って発生しているのではないかと思いたくなります。

3.発生の法則をどのように表現するか?

この法則をどう表現すればよいのでしょうか?よくわかりませんが、不規則に発生しているのであれば、乱数を適用して発生の頻度が表現できるのではないかと考えました。

エクセルの付属関数に乱数発生機能があります。1080日の勤務期間内に160回の想定外の発生ですから、この機能を用いて、0から1080の間で乱数を160個取り出すのです。それらを想定外の発生日と見立てれば、不規則な発生日の理論値に相当する値が設定できると考えました。

160個の具体的な数値は乱数を発生させるたびに変化するので、理論値といっても発生日そのものを確定的に決めるものではありません。ただし、ある大きさの乱数と次の大きさの乱数の差、すなわち、発生日の間隔の特性は、乱数の性質から何度160個の乱数を発生させても一定になるはずです。この特性が現実の発生日の間隔の特性と一致しているかどうかを確かめることとしました。

そこで発生日間隔が0(1日に2回起きた場合)~5日である回数、6~10日である回数、同じく、11~15日、16~20日…を計算することとしました。現実の事象では、次の発生日までの差を求めて0~5日、6~10日、11~15日…の間隔ごとに整理すればよく、理論値は、160個の乱数を小さい値から大きい値に並び替え、次の値との差をとって整理すればよいのです。

その結果を図-2に示します。

zu2015022702.jpg図-2 発生間隔と回数の関係

図-2では、例えば発生間隔が0~5日の発生回数を横軸の5の位置に、6~10日の発生回数を10の位置にプロットしています。

回数と発生間隔は美しい曲線を描いており、実績と乱数による計算値は見事なぐらいの一致をみています。最初にこの結果を見たときには、あまりの一致になにかの間違いかと思いましたが、何度乱数を取り直しても同様の結果となるので、この一致は本当のことだと信じることにしました。

これから以下のことが分かるといえます。

○ 現実の想定外事象の発生は、乱数と同様に不規則であること。

○ 発生間隔は短い場合が多く、長くなるほど頻度は少なくなること。

4.不規則の統計学的表現

ここまで美しい関係があるなら、なんらかの数学的な表現ができるはず、と統計学の本をめくってみました。そうしたところ、不規則現象の発生間隔は指数分布で表現できるとあり、図-2によく似たグラフが載っているではありませんか。これは、理想的な不規則である乱数の差が指数分布を示すことを意味しますから、私の想定外の発生間隔も指数分布を示すと捉えてよいことになります。

また、発生間隔が指数分布を示す不規則現象の発生確率は二項分布で示され、ポアソン分布で近似できるともありました。すなわち、私の想定外は数学的に不規則に発生する現象とみてよい、といえることとなります。

二項分布はサイコロがある数値を示す確率のような場合に適用できるものです。例えば、サイコロが3を示す確率は1/6ですが、6回サイコロを振った場合に必ず1回3を示すとは限らない。0回かもしれないし、2回になることもある。また、確率は小さいでしょうが3回3を示すこともあり得るでしょう。3を示す回数ごとの確率は二項分布の式で計算できるのです。

数式を示してもややこしいばかりですから省略しますが、二項分布の計算により、ある期間内にx回の想定外が起きる確率を計算することができます。私の実績では平均で0.1616回/日の発生確率です。これを利用して、7日の間に発生する回数と確率の関係、また、14日間に起きる回数と確率の関係を図-4に示します。

zu2015022703.jpg図-4 私の場合の、7日間および14日間に起きる回数と確率の関係

ピンク色のグラフは、7日間になにも起きない確率(横軸が0の点)が30%弱、1回起きる確率が40%弱、2回起きる確率が23%くらい…であることを示しています。

7日間になにも起きない確率は30%弱ですが、14日間となると8%くらいですから、1週間はなにもおきなくても、2週の間になにも起きない確率はかなり小さくなることがわかります。これまでの実績から、10日間なにも起きないというのはあまりないなと感じていましたから、図-4は私の感覚ともよく合っていると思います。

5.神仏のご加護は?

私にふりかかった想定外の現実から、想定外の事象の発生は不規則で、二項分布に従うこと、また、想定外事象の発生間隔は指数分布の形を示し、発生間隔の短い方の頻度が大きくなることには紛れがないようです。人によってグラフの形、すなわち分布のパラメータは異なるでしょうが。

発生するかしないかが二項分布や指数分布といった統計学の法則に従っているということは、いわば、サイコロの目で決めているようなもの。これではいくら対策しようが努力しようが、発生を抑えることはできません。

図-1が示すように、ある期間内に発生する頻度は一定です。ということは、なるほど毎回の発生間隔は一定ではないながらも、やや巨視的には一定のペースで発生し続けているということです。

私は現在の勤務期間の間に、安全や円滑な業務の進捗を祈念する初詣、大きな工事の着工にあたって行う安全祈願のお祓い等、何度も神様にお願いしております。実は、ある年にひどいことが連続したので、次の年から初詣のお参り先を変更してもいます。しかし、それらのお願いやお祓いは全く発生のペースに影響しておりません。どうも発生抑制には神様、たぶん仏様もあまり効果がない、といえるでしょう。

これに気づいたものですから、最近、神様にお願いするときには、”事故や事件が起きませんように”ではなく、”起きても重大なことになりませんように!祈被害最小!”とお願いしております。

発生防止のための対策より、いったん発生したときの被害を最小にするための対策の方がとりやすいでしょう。それが想定外事象に対する最も効果的な対応のあり方だと思っております。