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希少資源であるレアアースを検知するセンシング分子

平成26年度活動報告 第2回「希少資源であるレアアースを検知するセンシング分子」

環境・資源科学研究所  有村隆志

1.中国政府による「レアアース等の生産・管理強化政策」から4 年

レアアースは、我が国のIT産業分野を支えるハイエンド部材の原料である一方、自活できない資源の一つである。4 年前の2010 年11 月18 日付で、環境・資源科学研究所から「希少資源としてのレアアースと日本の課題」と題し発信した(バックナンバー参照)。その内容は、レアアース資源は中国に限らず世界中に広く分布しているので、「アジア諸国および南アフリカと共同探鉱開発を行うことで、隣人である中国のみならず幅広い視点を持ったグローバルな政策展開」の必要性であった。中国に注目するのは、レアアース資源埋蔵量は世界の約3 割と推定されており、レアアースのあらゆる元素がバランスよく高濃度で産出されているからである。実際、中国のレアアース生産量は、2005 年では世界全体の約93%、2010 年まではなんと97%を供給していた。そして、同年5 月からの中国政府の打ち出した「レアアース等の生産・管理強化政策」によるレアアース輸出制限のため、レアアース価格が高騰した。これにより中国以外の供給国の開拓が進み、レアアースを採掘する企業の株価も高騰したことも事実である。また、レアアース使用の高機能製品の代替製品開発やレアアースそのものの代替物開発研究も進み、世界のレアアース需要は減少した。2013 年でのレアアース需要総量は、約12 万トンであり、中国シェアは約70%まで減少した。新進気鋭の経済学者であるテキサス大学准教授ゴルツ博士(Associate Professor Dr.Eugene Gholz)は、「中国のレアアース輸出規制により、レアアース関連トレーダーに多くの資金が集中し、中国以外でのレアアース生産・リサイクル能力の向上につながった」と言及している。安価な労働賃金がネックであるが、生産プロセスにおいて採算がとれるようであれば中国以外でもレアアースの供給が可能となるとも指摘している。

2.我が国のレアアース資源に対する取り組み

資源問題は我が国が直面する大きな課題であり、国家的取り組みが必要である。レアアース資源に対しては、8 年前の2006 年3 月28 日に閣議決定された「第3期科学技術基本計画」の重点推進4分野のひとつである「ナノテク・材料分野」において、「資源問題解決の決定打となる希少資源・不足資源代替材料革新技術」と明確な研究方針が打ち出されている。これを受けて、2009 年から文部科学省と経済産業省(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、それぞれ「元素戦略プロジェクト」及び「希少金属代替材料開発プロジェクト」の国家プロジェクトを開始した。文部科学省実施事業では、物質・材料の機能・特性の発現機構を明らかにすることで、レアアースや有害元素を使うことなく、高い機能をもった物質・材料を開発すること、他方、経済産業省実施事業では、インジウム、ディスプロニウム等のレアアース資源の安定供給確保に向けて代替/使用量低減技術を開発することを目的としている。両事業終了後も、特定国に左右されない産業構造の確立を目指して、レアアースを中心とした、資源遍在性が高く緊急性の高い鉱種を主な対象として削減・代替のための国家プロジェクトが進行中である。

3.レアアースのリサイクル

我が国において、レアアースの代替及び使用量低減技術の開発は直近の課題であるが、廃棄IT製品などの都市鉱山からのレアアースリサイクル技術も課題解決に向けて期待されている。
即ち、レアアース金属群の中で、ランタノイド系列元素群には、ハイブリッド自動車の駆動モータに必須なディスプロニウム、パネルガラス及びPC用ハードディスク内のガラスディスク研磨剤であるセリウム、液晶バックライト用蛍光体に必須なユーロピウム等がある。ランタノイド系列元素群の物理的・化学的性質が互いに似通っているので、資源石の状態、更に最終的に使用後に回収された製品であるハイエンド部材中に共存する状態で、各存在量を検出し、必要に応じて分離して取り出すことが困難な状況にある。この状況下にあって、もっとも必要とされる技術は、高度なセンシング技術であり、できるだけ早期に確立する必要がある。以上の見地から、三協興産㈱とAIST との共同研究では、ハイエンド部材産業で重要な役割を果たしている特定のランタノイド系列元素をセンシング(検知)する手段となる革新的分子材料、及びその材料を応用利用するセンシングシステムを開発することで合意した。この共同研究においては、資源制約を克服し、3Rおよびリサイクル型経済システム構築の見地から、ハイエンド部材産業で重要な役割を果たしているレアアースの中でも、特定ランタノイド系列金属をセンシングできる材料を提供することを目的とした。レアアース製錬プロセスでは、化学的性質が類似したウランやトリウムなどの放射性元素も一緒に濃縮されるので、環境と経済を両立する持続可能な社会を実現するには、レアアースのリサイクル技術は必要不可欠である。

4.レアアースを検知するセンシング分子・・・特許

三協興産㈱と独立行政法人産業技術総合研究所(以下、AIST)は、レアアースのリサイクル技術に着目し、2000 年4 月から5 年間、「生活環境負荷を低減するナノケミカルプロセスに関する研究」と題した共同研究を開始した。研究予算は、三協興産㈱からの原資に加えて、AIST 側のマッチングファンド予算(企業出資予算半額の運営交付交付金)で賄った。この共同研究成果は、三協興産㈱とAIST との共同出願として特許申請を2010 年10月に行い(特願2010-231193)、2014 年8 月に特許とするものと確定し、特許原簿に登録された(特許第5598918 号)。

rareearth.jpg

分子設計に成功したセンサー分子は、ホスト化合物であるカリックス[4]アレーン*を基体とした配位子から成る【上図 化合物(1)】。二つのOH基(水酸基)で希土類金属を捕捉することができる。この配位子が検知できるランタノイド系金属は、イットリウム(Yb)、ディスプロニウム(Dy)、テルビウム(Tb)、ガドリニウム(Gd)、ユーロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ランタン(La)である。とくに 配位子(1)は、ハイエンド部材であるハイブリッド自動車の駆動モータに必須とされているディスプロニウムに対して高度な選択性(会合定数:K=5.4×107)を示した。

5.レアアースの有効利用に向けて

レアアースの採掘・精錬は、緑豊かだった山林が荒涼とした砂山になり、土砂の流出により生態系が荒廃し、環境破壊が深刻な問題となる可能性が多い。三協興産㈱とAISTで開発した特許技術は、ランタノイド系列金属群のランタノイド系金属イオンを選択的にセンシングし、分離する配位子の設計を可能にした。今後、ランタノイド系金属イオンのみでなく、すべてのレアアースの分離回収が可能となる技術につなげることが期待される。

語彙説明

カリックス[4]アレーンとは?
カリックスアレーンは、アルキル基を有することのあるフェノールが、水酸基の二つのオルト位でメチレン基を介して複数個結合した環状オリゴマーの総称である。環を構成するフェノール数[n]によってカリックス[n]アレーンと表記される。カリックスアレーンの構造に注目して種々な試みが行われてきた。

参考論文
* T. Arimura et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 1989, 62, 1674-1676.
* T. Arimura, “BOTTOM-UP NANOFABRICATION: Chapter 5 Supramolecular Tweezers Based on Calixarenes”, American Scientific Publishers, Volume 1, 157-168, 2009.