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人的資本をサポートする介護ロボット技術

平成25年度活動報告 第3回 「人的資本をサポートする介護ロボット技術」

環境・資源科学研究所 有村隆志

1.はじめに

平成24年(2012)7月に閣議決定された「日本再生戦略」では、3年前の「新成長戦略」の内容は大幅に書き換えられ、例えば、人の生活を豊かにする重点施策として、「ライフ:世界最高水準の医療・福祉の実現プロジェクト」が挙げられている。ロボット技術による介護・福祉貢献、新産業創出/医療・介護福祉周辺サービスの向上を目途とし、2020 年までの目標は、50 兆円の需要創造と284 万人の雇用創造としている。これまでの国家経済戦略は、兎に角、「グローバル経済で我が国の成長産業の高付加価値化を図り、何が省エネ化か?どこのスペックを特化するか?如何に勝ち残るか?等の物質的豊かさ!」のみを謳っていたが、やはり2011年3月の「東日本大震災」を契機として何が大事かを考えさせてくれたのかもしれない。実際、この自然災害の起こった日から「人との絆」が叫ばれるようになり、「助け合い」「幸せ」「友達」「親切」「家族」等、社会環境で住む人として当たり前のことが問われるようになった。2010年、日本のGDP(国内総生産)は中国に抜かれて世界第3位に後退した時期でもあり、物質的豊かさが本当の「幸せ」になるのかについて考え直すターニングポイントになったのである。

我が国では、古くから「袖振り合うも多生の縁」とし、小さな社会環境の中での一期一会を大事にして、震災後に自然と口にしている「絆」においても非常に意味の深い特別な感情を抱いているのである。幸福に生活するには、震災でいとも簡単にゼロに成る物的資本や自然資本ではなく、人的資本が最も重要なのである。

2.日本における人的資本

我が国では、総人口が減少する中で、2012年において75歳以上の高齢者は1500万人であり、2025年では2200万人となり、全人口の約20%を占め5人に1人は75歳以上の高齢者となる。また、65歳以上では、2年後の2015年では全人口の26%、30年後の2055年では40%に達することが想定されている。これからの新生児を増やす手段を考えることは可能であるが、現在の働き盛りの20,30代の若者を増やす術はない。生活水準が良くなり、現代医療技術の発達により長生きがますます保障されることになるが、高齢になれば社会の生産活動とは異なる介護が必要にもなる。現在、75歳以上の高齢者の30%である450万人は介護が必要な方たちである。介護施設と同様に介護する側の人材にも困る状況である。環境と福祉を融合させた学会活動も最近始まっており、人的資本の充実は避けられない問題である。

3.環境福祉分野の課題解決に向けてのロボット関連技術

普通の生活をキープし「幸せ」を得るには、世界最高水準の医療を維持し、人口比率の多い高齢者の生活の質の向上、介護・福祉現場等における介護サービスの向上が重要な課題となる。そのためには、人の手に頼らないロボット技術等を導入することで、多様な医療・福祉機器を開発することが肝要となる。そのことで、我が国の新しいものづくり産業の創出に貢献することも期待され、若者の活動の場も広がる。

日本のロボット先端技術の詳細内容に関しては、別の著書を参考にしてほしい。独立行政法人産業技術総合研究所では「ペットを飼っているように癒されるとするペットロボット」の可能性が検討されている。また、盲導犬の機能を有するロボット、つくば発のサイバーダイン1)、さらに我国オリジナルである「一輪車に乗るロボット」も公開されており、ロボットに触れる機会が増えているのは事実である。

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癒しゴマアザラシロボットのパロ

4.介護へのロボット技術導入

ロボット技術による介護現場への導入においては、介護する側の負担軽減と介護される側の自立支援に資するものを重点対象とすべきである。介護分野の特定には、平成24年(2012年3月 厚生労働省)の調査結果「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業報告書」を参考にして優先度を決める必要がある。

既に、サイバーダインで行われているように、ロボット技術で介助者の抱きかかえ等のパワーアシストを行う機器開発は最優先ではなかろうか?女性介助者が筋肉痛や手首の腱鞘炎になり、苦労されていることは良く耳にする話である。介護者・高齢者の外出をサポートする歩行支援機器や介護施設においての認知症の方を見守るセンサー・外部送信機器等のネットワークインフラも直近の課題である。介護者・高齢者の排泄サポートもロボット技術を導入することで、介助者の負担も低減するであろう。即ち、ロボット技術の導入は、介護者の家事・洗濯・口腔ケア・排泄・入浴等の日常生活支援、認知症高齢者に対する見守りシステム(睡眠センサー、離床センサー、入浴センサー)にまずは特化すべきである。

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新学術領域研究分子ロボティクスのロードマップ

5.おわりに

昔、「不気味の谷」2)という表現でロボット開発プロセスが揶揄されたことがあるが、不気味の谷を超えた人間そっくりのロボットが開発され、介助者に頼らない自立型介護ロボットができればベストである。しかし、実際問題としては、まだ時間を必要とする。2012年から5年計画で始まった文科省科研費・新学術領域「分子ロボティクス」3)も、その一助となれば幸いであるが、目途としては「スライム型ロボット」4)であり、まだまだ基礎研究の域をでていないのでこれからの勝負である。現実問題の「介護する者・される者」、これが高齢者・介護者への一方通行ではなく、周りの人の作る環境で自然と働くシステムが必要である。介護アシストとしてロボット技術を導入し、日本社会の「絆」「縁」を守るべきである。来るべき超高齢化社会を前に、ロボット技術導入は期待されるところである。それにより、介護者・高齢者に対してきめ細かな医療・介護サービスが実現され、地域社会全てが豊かな生活を送ることができるのではないだろうか。

語彙注釈

1)サイバーダイン:サイバニクス技術を基幹としたロボット研究開発・製造・販売を行っているベンチャー企業。HALなどを販売している。

2)不気味の谷(The Uncanny Valley):ロボットが人間にあまり似ていない段階では、人は好意的であり何も感じない。また、ロボットが完全に人間と同じであれば、人との区別がつかないので何も感じない。他方、あまりにも人間そっくりでありながら、やはり人ではないと分かるとき、人は不気味さを感じることになる。完璧な人型ロボットの不完全さが非常に些細な箇所になればなるほど、人は不気味さを感じること。1970年、森政弘・東工大名誉教授(専門:ロボット工学者)が提唱しており、日本発の概念である。ロボットアニメのトイストーリ、ファイナルファンタジー、ミスターインクレディブルなどに創作プロセスに影響を与えている。

3)新学術領域研究「分子ロボティクス」:平成24年度から5年計画で発足した領域提案型の文科省科研費補助金、正式名称は「感覚と知能を備えた分子ロボットの創成」である。
領域ウェブサイト:http://www.molecular-robotics.org/

4)スライム型ロボット:新学術領域研究「分子ロボティクス」で目標としているロボットである。機能性の高分子ゲルを素材として反応場をスケールアップし、走性のような異方性を有する分子ロボットである。