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セメントの製造になぜ廃棄物をたくさん利用できるのか

平成25年度活動報告第2回「セメントの製造になぜ廃棄物をたくさん利用できるのか」

環境・資源技術研究所 次長 三宅淳一

 

1.はじめに

セメントの製造には多種多様の廃棄物が原料や焼成の際の燃料として使われている。東日本大震災の廃棄物も受け入れられており、木くず、混合可燃物、廃タイヤ、混合不燃物、廃飼料、油まじり土壌といったものがセメントになっているとのことである1)。このような雑多な物質群が、品質の安定した工業製品によくもなるものだと、不思議に思われる向きもあろう。

本稿ではその機構について概略を紹介する。ひとことでたね明かしをするならば、”セメントの焼成反応の基本をおさえた、高度で綿密な化学的品質管理のなせる技”ということになろう。

 

2.セメント製造技術のあらまし

近代的なセメントは18世紀のイギリスで発明されたとされている。日本には明治維新の頃に伝わったが、早くも1875年には、東京の深川に設けられた官営製造工場において、国産セメントの製造が開始されている。以来、国産セメントの製造は着実に伸び、戦前の段階で、日本の技術によるセメント工場が中国に建設されるまでに発展していた。明治以後に導入された外国生まれの物品のうち、国産化が最も速やかに実現されたうちのひとつではないだろうか。

セメント1tの原料は石灰石1100kg、粘土200kgとその他原料(珪石や鉄を含む材料等)100~200kgである。これらは、全て国内で調達できることから、いよいよ国産化が進めやすかったといえる。

セメントの発明はイギリスであるが、日本のセメント製造技術の範はドイツにとったようである。セメントの製造方法を大まかに述べるならば、石灰石、粘土、珪石等の原料を粉砕し、高温の回転窯(キルン)で原料同士が溶融するまで熱し(1450℃)、その結果、形成された直径1cm程度のボール状のセメントの塊(クリンカと呼ばれる)を取り出して急冷した後、粉砕機(ミル)で平均粒径10μm程度の粉体にすることとなる。基本的なセメント工場の構造を図-1に示す。

図中の仮焼炉(かしょうろ)は回転窯の排熱を利用して、材料を予熱することにより、熱効率を向上させるための装置である。回転窯の一方から予熱された材料が投入され、回転する間に溶融することによって球状のクリンカが形成される。窯の他方から排出されたクリンカを大量の空気で急冷することにより、水と反応して硬化する機能の高い鉱物組成にコントロールすることができる。

 

cement_zu03.JPG

図-1 セメント製造工程2)

 

3.セメント製造における化学的な原理

セメント原料としては前述の石灰石等の天然素材が使用されてきた。

セメントは、4種の鉱物(3CaO・SiO2, ?2CaO・SiO2, ?3CaO・Al2O3 , ?4CaO・Al2O3・Fe2O3)から構成されている。これら鉱物の構成比の違いにより、早く固まるが発熱量が大きいセメント(3CaO・SiO2の多い早強セメント)、硬化速度は遅いが低発熱のセメント(2CaO・SiO2の多い中庸熱セメント)、標準的な性質のもの(普通ポルトランドセメント)というように、セメントの性質が異なってくる。

1920年代にR.H.Bogueによって、鉱物構成比とそれを実現するために必要な元素(Ca, Si, Al, Fe)の比率の関係が数式化(ボーグの式と呼ばれる)された。これにより、目標の鉱物組成のセメントを製造するために、どのような化学成分の原料を用いればよいかが、計算により設定できるようになった。

すなわち、原料に含まれる元素(Ca, Si, Al, Fe)はどのような形態であっても(例えば、Caの場合、CaCO3, Ca(OH)2, CaCl2, CaSO4等、いろいろな形態を取りえる)、各元素の比を要求どおりに調整し、所定の温度(1450℃)で焼成することにより、目標の鉱物組成を有するセメントを焼成できることが示されたのである。天然原料では石灰石がCa、粘土がSiとAlの主供給源であり、Si含有量の多い珪石はSi量の調整に、Feはこれらの原料に含まれるものが充てられる。

R.H.Bogueは天然原料によって製造されたセメントを対象に研究をすすめたのだが、その後、この原理は天然原料でなくても適用可能であることが判明した。ただし、Ca, Si, Al, Fe以外の、いわば不純物である成分が、セメントの性質に悪影響を及ぼさない範囲に抑えられていることが必要とされる。この原理が、石灰石、粘土、珪石等以外の材料、それが廃棄物として扱われている材料であっても、セメント原料として用いることを可能とした。

最初にセメント製造に大量に適用された廃棄物は、主成分がセメントと共通である石炭灰であった。この石炭灰とは、石炭火力発電所で燃焼される石炭の燃え殻であるが、石炭を微粒にして燃やすため、平均粒径20μm程度の粉体である。石炭の形成過程から明らかなように、燃え殻となる不燃成分はもともと土や岩であるから、Si、Alを主成分とし、CaやFeも含んでいる。

石炭灰をセメント原料に適用する研究は、旧日本セメント(現太平洋セメント)の技術者によって、1970年代初頭になされた。この技術は1980年頃に、石炭を燃料とする電源開発㈱磯子火力発電所から発生する石炭灰に対して本格的に適用され、旧秩父セメント(現太平洋セメント)等の工場の原料として使われるようになった。1980年代以降、海外からの輸入石炭を用いる石炭火力発電所が電力各社によって建設され、現在、この方法は石炭火力から発生する石炭灰のリサイクルの中心的手法となっている。

 

4.原料および燃料としての廃棄物の使用

化学成分を調整しながら廃棄物をセメント原料として利用する方法は、可燃性廃棄物を燃料として受け入れる手法とともに、セメント製造における廃棄物利用を推進した。太平洋セメントのHP3)によれば、原料とする廃棄物として石炭灰、浄水・下水汚泥、都市ごみ焼却灰、汚染土壌が、燃料とする廃棄物として、廃タイヤ(スチールラディアルは鉄原料)、廃プラスチック、廃パチンコ台、廃パチスロ機、建設廃材をあげている。原料とする廃棄物はいずれもSi, Al, Caを多く含み、燃料としている廃棄物は燃料成分となる可燃物以外に、原料成分であるFe, Si, Alを含んでいる。

セメント協会HP4)に見られる廃棄物の使用統計を表-1に示す。これによれば、2010年にはセメント1tあたり469kgの廃棄物・副産物を使用している。廃棄物・副産物使用量の合計は減少傾向にあるが、セメント生産量も減少しているため、セメント1tあたりの使用量は増加傾向にある。

なお、この数値には5.に後述する混合材としての使用分も含んでおり、純然たる原料および燃料として用いられたものはセメント1tあたり300kg強程度と推定される。このように多くの廃棄物の利用が可能となった背景には、仮焼炉において塩素等の不要元素を除去するための装置の開発、分析装置の発達によって、原料の組成が迅速に把握できるようになったこと等がある

表-1 セメント業界の廃棄物・副産物使用量の推移(2006-2010)4)  (単位:千トン)

cement_zu02.JPG

注1 「その他」は廃酸、廃アルカリ、ガラス・陶磁器くず、がれき類、RDF、RPFなど。

注2 セメント1t当たり使用量とは、原料代替、熱エネルギー源、混合材としてセメント1tを生産するのに使用した廃棄物・副産物の量を示す。

 

5.混合材としての副産物の利用

これまではセメントを焼成する際の原料としての廃棄物の利用について述べたが、4.で触れたように、廃棄物の利用法としてはセメント原料の他に、混合材としてセメントに混ぜて使用する方法がある。この場合、混合材となる資材はセメント原料向けより細かい品質管理がなされ、有用物として流通するため、廃棄物ではなく、副産物と称せられる。

焼成して製造したセメント(普通ポルトランドセメント、早強セメント、中庸熱セメント等)に混合材(高炉スラグ微粉末や石炭灰等)を混ぜたものは混合セメントと呼ばれ、混合セメントに関するJISの規定が制定されている。混合セメントは混合材の種類により異なる性質を示し、普通ポルトランドセメントに比べて、耐久性向上、低発熱、アルカリ骨材反応抑制等の効果が期待できる。

普通ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末を混ぜたセメントは高炉セメントと称せられ、日本でのセメント生産量の約25%を占める。高炉セメントは高炉スラグ微粉末の混合率を40~60%とした高炉B種セメントが主に使われている。高炉スラグ微粉末は、溶鉱炉にて鉄鉱石と石灰石の混合物から鉄を取り出した残渣を水冷し、ミルにて微粉砕したものである。鉄の生産工程からの廃棄物ではあるが、成分管理、粒度管理を行うことにより、すぐれた機能を発揮することができる。

また、火力発電所の燃え殻である石炭灰のうちの微細部分を選別したフライアッシュも優れた混合材となり、それを混合したものはフライアッシュセメントと呼ばれる。低発熱性、長期強度が大きい等の利点がある。ただし、ダムが盛んに作られた過去には多く生産されたが、現在の生産量は全体の1%以下となっている。

 

6.まとめ

1920年代のR.H.Bogueの研究を基盤として、セメントの4元素(Ca, Si, Al, Fe)を含み、4元素以外の不純物が悪影響を及ぼさない範囲であれば、どんなものでも原料に使用できることが判明している。また、これまで、不純物の低減技術、分析技術および品質管理の向上等により、多量・多様な廃棄物が利用できるようになっている。

現在、焼成されるセメント1tあたりで300kg強の廃棄物が原料および燃料として利用され、混合セメントに混合材として利用される廃棄物(有用物であるから副産物と称せられる)も合算すれば、日本のセメント1tあたり、470kg程度の廃棄物が利用されている。

廃棄物の利用というと、非常に大雑把で妥協に満ちた手法との印象があるが、筆者の知るセメント工場では、蛍光エックス線分析等の方法により、常に2時間おきに原料や製品の分析を行い、廃棄物を含む各原料の配合が適正か否かをチェックしている。すなわち、セメント製造における廃棄物の利用は、非常に高度で綿密な化学的品質管理に負っているといえるのである。

 

参考文献

1) 片岡政之:廃棄物資源循環学会25年度第1回講演会,廃棄物資源循環学会誌,Vol.24, No.4, p.324, 2013.

2) 大門正機,坂井悦郎編:社会環境マテリアル,p.6, 技術書院,2009.

3) http://www.taiheiyo-cement.co.jp/
4) http://www.jcassoc.or.jp/