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想定外への対処はどのようにあるべきか

研究レポート「想定外への対処はどのようにあるべきか」

次長  三宅 淳一

<研究レポートI>
想定外への対処はどのようにあるべきか

東日本大震災は想定外のマグニチュード9という規模の地震によるものであり、やはり想定外の高さとなった津波によりすさまじい被害がもたらされた。

強い地震の発生に反応して福島第一原子力発電所が手はずどおりに運転停止したまではよかったが、津波によって外部電源が停電したうえに予備電源装置が全て稼動できないというこれも想定外の条件のために原子燃料の冷却がうまくいかず、安定に向けての厳しい戦いが今も続けられている。

まさに想定外だらけの出来事なのであるが、そう言ってばかりではなにも生産的なことは得られない。ここでは、工学の特性を踏まえて、今後、想定外の事象にどのように取り組んでいけばよいかについて考えてみたい。

筆者の専攻は土木工学であるが、土木・機械・電気といった工学一般の世界では、想定される最大の荷重・応力・電圧といった外力を仮定し、所要の安全率をもってそれらに耐えることができるように設計することが通例であろう。想定の荷重や安全率を大きくすれば構造物の信頼度はあがるが、柱や壁ばかりの建物のように使い勝手が悪くなったりするので必ずしも歓迎されない。また、構築するための費用も高額になる。想定荷重や安全率などの決め方は対象物によって異なるのであるが、工学のいずれの分野であっても各々の歴史のなかで、構造物の強さ・信頼度と費用を片側ずつに載せた天秤のようにバランスをとりつつ、それらは設定されてきたといってよいだろう。

ここで忘れてはならないのは、想定荷重や安全率は技術的にはいくらでも大きくとれるが、期待できる便益より大きい額の費用を構造物の構築や運営のためにかけることはできない、ということである。これは民間の営利企業では当然であろうが、税金を用いる公共事業であっても税金の無駄遣いを防ぐという観点からは同様であると思われる。公共事業は不特定の人の福利厚生に資するので便益の計算にむつかしい点があるが、考え方は同じでよいだろう。すなわち、いつの時代にどんなものを作る場合にも想定外となる事象の存在は避けられないのである。

ことさら口には出さなくてもこのことに気づいている技術者は非常に多いだろう。原子力の世界では、想定を超える事象によって生起される危険性の存在を「残余のリスク」という用語で明確に表現している。発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(平成18年9月19日原子力安全員会決定)では「残余のリスク」を「策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより、施設に重大な損傷事象が発生すること、施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること、あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク」と定義し、施設の設計に当たっては、策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い、「残余のリスク」を実行可能な限り小さくするための努力が払われるべき、としている。耐震設計審査指針のこれらの文章は地震動を対象に書かれているが、考え方は全ての外力となる事象に共通といえよう。

想定荷重や安全率のあり方を検討する技術者はこの「残余のリスク」の存在について心を砕いているはずだが、想定外の現象がおきた場合の状況を予測することはなかなかむずかしいことである。「残余のリスク」を評価するためには、対象構造物が想定を超えた荷重等によってどのように変形しつつ破壊に至るかを把握する必要がある。ところが、設計で一般に用いられる式(例えば部材の応力を計算するための式)や許容される限界値などは、想定荷重内での通常の使用状態を対象にしているものであるから、想定を超える大きな外力がかけられた場合に適用できるとは限らない。

想定荷重に対して安全かどうかを照査する式や方法論は、工学の各分野において長い歴史の中で整備されてきている。その安全照査に合格すれば、想定荷重に対しては高い確度で「安全」と判定できるといってよいだろう。しかし、想定荷重を超えた場合どうなるかを推算するには全く異なる方法論を必要とする場合があり、確度も低下することとなる。筆者の通じている世界から例をひくならば、鉄筋コンクリートの場合、想定荷重に対しては弾性挙動するようにコンクリート構造物の断面形状や鉄筋の量が設計されるが、想定荷重を超える度合いが大きくなるほどクラックが多く入って非弾性的な挙動となるため、通常の設計の方法論は通じなくなる。また、地震時に土の斜面が安定か否かといった問題も、一般的な円弧すべり法による安全照査法の確度の高さは歴史的に認められているため、それによって安全との結果が得られれば安心できるのであるが、想定以上の加速度を与える地震が到来したときに、どのような過程や形状で斜面崩壊がなされるのかといったことに関する情報は円弧すべり法からは得られないのである。

このようなことは工学のいろいろな分野の全般にわたって存在していると思われる。よって、想定を超える場合の挙動を推算しようとすれば、広く用いられている設計手法は通じず、専門家と呼ばれる少数の技術者や研究者でなければ扱えない方法論が必要となる。しかし、それらが学会や監督官庁の認知するものでなければ議論が続くこととなり、私的な推算での結論はすぐに出せても公的に認知される結論を得るためには時日を要することになろう。

東日本大震災を踏まえて、今後は想定外の事象が起きた場合のアセスメントが一層求められるようになることが予想される。それに応えるには、通常の使用状態を超えた場合の挙動を、一定の確度をもって把握する方法論を着実に整備していく必要があるといえる。これは変形・破壊といったことに関する基本的技術の研究を必要とすることから一朝一夕には達成できないかもしれない。その結果に基づいて、必要となる非工学的方法論による対処法(日頃からの防災教育、災害発生時の行動、避難計画といった人的行動による対処など)を組み合わせて被害の極小を目指すこととなる。道は遠いが着実な取り組みが求められものである。

<研究レポートII>
阪神・淡路大震災の反省を踏まえた復興作業

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は近代都市を襲った未曾有の地震であった。発生してまもなく現地に入った筆者が戦慄を覚えたのは、建物、橋梁、港湾施設、住居等の破壊状況のみならず、それらが破壊されたことによるコンクリートやレンガおよび木材等の残骸の多さであった。また、その時点では構造物が破壊されっぱなしの状態が多かったが、復興のためにはすみやかにこれらを解体し、廃棄物と化したコンクリート等をどこかに運搬して処理しなければならなくなることは容易に理解できた。それに必要な手間と時間、処理先の手配、分別、焼却や埋立て…といったことに少しく思いをめぐらせるだけであまりのことに圧倒され、どうすればいいのか、どうなるのだろうか、と背筋が凍る思いがしたものであった。

阪神・淡路大震災のときは、摩耶埠頭のうちで被害のなかった耐震岸壁への船舶による資機材の搬入が有効であった。現在、三陸地方でも航路の整備により海上からのアプローチが図られているが、津波による沈船等の障害物の除去に苦闘が続いていると聞く。これは阪神・淡路大震災のときには起きなかった事象であるが、早く港湾が使えるように作業がすすむことを祈りたい。

海上輸送が可能となれば資機材の搬入とともに廃棄物の搬出も容易となる。阪神・淡路大震災の時には多くの廃棄物が搬出された。その際、可燃性・爆発性の廃棄物には細心の注意が払われものの、一般物についてはコンクリート、レンガ、木材、金属…と分別を行うこととはしていたものの、埋立て等による処理速度を優先させ、高い分別精度は保つことはできなかった。また、当時はまだアスベストの問題は現在ほどには認識されていなかったため、それを含む廃棄物の分別状態は必ずしも良好ではなく、作業従事者の防護策も十分とはいえない状態であった。

今回の東日本大震災でとくに三陸地方で発生した被害に伴う廃棄物が非常に広い地域に分布して存在していることは阪神・淡路とは決定的に異なる現象である。よって、阪神・淡路の場合以上に効率的な収集・仮置・分別・運搬・処理体制を構築し、各々に必要な装置や運搬設備をタイムリーに揃えることが求められる。とくに、収集・仮置・分別の手順が適切でなければ阪神・淡路大震災のときと同様の反省をしなければならなくなるだろう。

これらの作業計画の策定と実行に関して、三陸地方の地形・交通等に通じた機関や人材が広い地域を対象にリーダーシップをとれば、多面的に整合のとれた計画が迅速に策定でき、その後の実行も円滑なものとなろう。一方、収集・分別等の具体的作業については、そのような作業にプロフェッショナルな人材と機材をいかに多く集めて統率できるかで現地での作業の速度が左右されることとなる。よって、全国規模でのその道のプロの糾合が望まれる。

分別できた可燃廃棄物は燃料化し、時間をかけてもエネルギー変換できるよう、安易に埋立て処分することは避けるべきであろう。また、コンクリートやアスファルトは可能な限り再生利用を図りたい。そのためには保管場所の確保が望まれる。また、作業を容易にするため、道路の付替えや幅員の見直し、区画整理といったことも有効であり、復興がなった後には整然とした使いやすい町が出現することに寄与すると思われる。廃棄物処理は復興作業の第一段階である。その後の復興作業に資する効率的な処理計画の策定が喫緊の課題といえる。