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東北地方太平洋沖地震の被災地におけるPCB廃棄物・PCB汚染物の紛失・違法廃棄・違法焼却の徹底的な未然防止の提言

東北地方太平洋沖地震の被災地におけるPCB廃棄物・PCB汚染物の 紛失・違法廃棄・違法焼却の徹底的な未然防止の提言

(NPO法人)環境国際総合機構 会長
摂南大学 大学長付客員教授
宮田秀明

(NPO法人)環境国際総合機構 理事長
花澤義和

ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、難分解性、高蓄積性、長距離移動性、有害性(人の健康・生態系)をもち、広範囲な環境汚染やヒトを含めた生体汚染を引き起こしたため、1973年に「化審法」で第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入・開放形での使用の禁止およびPCBを含有するトランスやコンデンサーなどのPCB廃棄物の保管が義務づけられた。そして、「PCB特別措置法」が2001年6月に公布され、PCB廃棄物保管事業者は、PCB廃棄物を2016年7月までに適正処理することが義務づけられた。

一方、国際的には、地球規模の環境汚染によってヒトを含めた生態系に有害な影響を及ぼす懸念があるため国際的な協力対策が必要とされ、2001年5月に「ストックホルム条約」(2004年発効)で残留性有機汚染物質(POPs)として指定され、2025年までに使用の全廃と2028年までに適正処理が義務づけられた。

以上のように、PCBそのものが、上記したように「化審法」の第一種特定化学物質であり、また、「ストックホルム条約」で指定POPsとしての有害物質であるが、一方では超高濃度のダイオキシン類含有する化合物でもある。即ち、PCBは、209種類の成分から構成される有機塩素化合物であるが、その中の12成分がコプラナーPCBと総称されるダイオキシン類である。そのため、工業用PCB製品や保管トランス・コンデンサー中のPCBは、1 g当たりに150万~2,000万pg-TEQのコプラナーPCBを主体とするダイオキシン類を含んでいる(表1参照)。ダイオキシン類の環境基準は、水質で1 pg-TEQ/L、大気で0.6 pg-TEQ/m3、底質で150 pg-TEQ/gおよび土壌で1,000 pg-TEQ/gであることを考慮すると、PCBは超高濃度のダイオキシン類含有物質である。一方、PCBが火災などで燃焼した場合、その一部が熱変成を起こし、大量のポリ塩化ジベンゾフランと総称されるダイオキシン類が生成する。その一例として、米国のビル火災でPCB含有トランスが燃焼した場合、1gのPCBから2億~4億pg-TEQの高濃度のダイオキシン類の生成が報告されている(表2参照)。

本年3月11日に発生した東日本大震災によって東北地方~関東地方の広範囲な地域が、わが国の史上で最大の人的・経済的被害を被った。倒壊家屋や焼失家屋の規模は、1995年に発生した阪神・淡路大震災(全半壊家屋:249,180棟、一部損壊:390,506棟、全焼:6,148棟、全焼損:7,438棟)を大きく上回ることも予想される。

今回の大震災によって大きな被害を受け、多数のヒトが死亡した岩手県、宮城県、福島県、茨城県および千葉県では膨大な台数や量のPCB廃棄物が事業所に保管されている(表3、環境省平成20年3月31日発表)。これら被災地域における各PCB廃棄物の合計保管量は、高圧トランス:2,468台、高圧コンデンサー:24,590台、低圧トランス:986台、低圧コンデンサー:112,863台、柱状トランス:629,710台、安定器:502,808台、その他の機器:4,055台、PCB:24,561 kg、PCBを含む油:531,718 kg、感圧複写紙:15,171 kg、ウエス:51,905 kg、汚泥:68,377 kgである。

一方、これらの保管PCB廃棄物とは別に、近年、全国において推計で微量PCBを含んでいる電気機器(トランス、コンデンサー等)が約120万台およびOFケーブルが約1,400kmもの莫大な量のPCB汚染物の存在が明らかとなった。そのため、2009年11月、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則」の一部が改正され、これらのPCB汚染物の適正処理が開始された段階である。従って、今回の被害地域においては大量の保管PCB廃棄物とともに微量PCB汚染物も存在している。

今回の大震災の被害地では、上記のようなPCB廃棄物やPCB汚染物を保管・所有している事業所の大規模の倒壊・損壊・火災が起こっている可能性が高い。このような倒壊・損壊・火災の事業所の事後処理に伴ってPCB廃棄物やPCB汚染物の紛失・違法廃棄・違法焼却が起こりやすく、PCBやダイオキシン類による深刻な環境汚染の発生が懸念される。このような事態の発生を避けるため、PCB廃棄物・PCB汚染物の紛失・違法廃棄・違法焼却の未然防止を徹底的に図る必要がある。

上記の観点から、中央政府および地方政府は、PCB廃棄物やPCB汚染物の保管事業者や所有事業者に対して、PCB廃棄物およびPCB汚染物の紛失・違法廃棄・違法焼却の徹底的な未然防止を図るための政策を早急に講じることを要望する。

表1 工業用PCB製品および保管廃電気製品中PCBに含まれるダイオキシン類濃度

試 料
ダイオキシン類濃度(pg-TEQ/g-PCB)
ポリ塩化
ジベンゾ
-p-
ジオキシン
ポリ塩化
ジベンゾ
フラン
コプラナー
PCB
合 計
高圧トランス絶縁油
1
120
160,000
11,000,000
11,161,000
2
4.5
340,000
19,000,000
19,342,000
3
n.d.
130,000
14,000,000
14,133,000
4
n.d.
160,000
15,000,000
15,164,000
高圧コンデンサー絶縁油
1
n.d.
64,000
2,800,000
2,865,000
2
n.d.
130,000
4,500,000
4,632,000
3
n.d.
88,000
16,000,000
16,091,000
4
n.d.
89,000
17,000,000
17,093,000
工業用PCB製品
カネクロール
300
n.d.
29,000
1,500,000
1,529,000
カネクロール
400
0.59
280,000
15,000,000
15,280,000
カネクロール
500
n.d.
100,000
16,000,000
16,100,000
カネクロール
600
0.46
11
7,500,000
7,770,000
カネクロール
1000
n.d.
11
11,000,000
11,210,000

n.d.:定量下限未満

トランス中
の溶媒
溶媒中の
PCB濃度
(μg/mL)
PCBの
熱分解率
(%)
PCB 1gから生成した
ダイオキシン類量
実測量
(pg)
推定毒性
等量
(pg-TEQ)
鉱物油
5,000
82~88
7,5000,000,000
375,000,000
鉱物油
500
87~92
4,140,000,000
207,000,000
鉱物油
50
88~90
3,560,000,000
178,000,000

出典:desRosiers, P.E. et al.: PCB fires: Correlation of chlorobenzen isomers and PCB homolog contents of PCB fluids with PCDD and PCDF contents of soot, Chemosphere, 15, 1313-1323 (1986)

表3 PCB廃棄物の保管等の届け出結果(環境省平成20年3月31日発表資料より抜粋)

県名
高圧
トランス
(台)
高圧
コンデンサ
(台)
低圧
トランス
(台)
低圧
コンデンサ
(台)
柱上
トランス
(台)
安定器
(台)
岩手
141
1,281
135
3,515
1
33,223
宮城
313
2,737
297
6,467
326,850
139,179
福島
578
3,915
23
4,129
7
47,180
茨城
414
7,330
121
52,924
110,230
97,065
千葉
1,022
9,327
410
45,828
192,618
186,161
合計
2,468
24,590
986
112,863
629,710
502,808

県名
その他
の機器
(台)
PCB
(kg)
PCBを
含む油
(kg)
感圧
複写紙
(kg)
ウエス
(kg)
汚泥
(kg)
岩手
78
0
10,996
1,262
174
5,344
宮城
654
25
366
5,906
7
1,650
福島
813
150
43,860
1,247
1,537
11,264
茨城
0
0
399
1,270
33,295
16,000
千葉
2,510
24,386
476,095
5,486
16,892
34,119
合計
4,055
24,561
531,718
15,171
51,905
68,377