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希少資源としてのレアアースと日本の課題

希少資源としてのレアアースと日本の課題

環境・資源科学研究所  有村隆志

イットリウムは、スェーデンの小さな町イッテルビーで、1794 年にフィンランド人のガドリンによって初めて発見されたレアアースである。発見から約200 年経た現在では、イットリウムは、コバルト・鉄との合金として蛍光体や高圧水銀灯に、アルミニウム・ガーネットとの合金ではレーザー発振素子、また銅酸化物との合金としては超伝導物質として盛んに利用研究されている。しかし、有用なレアアースとして注目されたのは、発見から100年近くあとの1885年、オーストリア人のウエルスバッハによって発明されたガスマントルである。ガスマントルは酸化イットリウムと酸化金属との合金であり、熱することで白色光を発し、現在でも更なる高度化研究開発がおこなわれており、実際、日本では2 万基以上のガスマントルが使用されている。レアアースは希土類金属(レアメタル)のことであり、日本でその名前が公に知られるようになったのは、1968 年に日立製作所から販売された高度な輝きを有するカラーテレビにつけられた名称「キドカラー」が最初ではないだろうか?レアアースであるユーロピウムとテルビウムを主とした蛍光体材料が使用されており、鮮やかな赤色の発光が特徴である。現在では、種々な発光体材料として、真空紫外励起プラズマディスプレイ用蛍光体、照明用有機エレクトロルミネッセンス素子、液晶バックライト、電界放射型ディスプレイ用蛍光体、照明用フィールドエミッションランプ用蛍光体、レーザー発光素子などが盛んに研究・実用化されている。また、レアアースを用いた電池材料も注目されており、正極にニッケル金属合金を、負極にレアアースを含む水素貯蔵合金を用いたニッケル・水素二次電池は、1986 年に松下電器グループがサイクル特性を向上させることに成功し、1990 年に実用化されている。リチウムイオン二次電池が電池マーケットを席巻しつつあるが、瞬間的な高出力特性が必要とされる電動工具分野やハイブリッド電気自動車で主力部品として使用されている。また、音がほとんど出ない冷蔵庫やワインクーラーもレアアースの特徴を上手に利用した材料が、コンプレッサーの代替物として使用されている。これは、熱電変換素子にレアアースを使用することで、電気から温度差を生み出す(ペルチェ効果)ことが可能だからである。以上は、レアアースが極めて有用な材料の原料になるほんの一例である。

さて、レアアースは、我が国産業分野を支える高付加価値な部材の原料であり、近年その需要が拡大している。しかし、途上国における著しい需要の拡大や、そもそも他の金属と比較して、金属自体が希少であり、代替性も著しく低く、その偏在性ゆえに特定の産出国への依存度が高いこと等から、我が国の中長期的な安定供給確保に対する懸念が生じている。この危機感に対する具体的な政策としては、2006 年3月28日に閣議決定された「第3期科学技術基本計画」の重点推進4分野のひとつである「ナノテク・材料分野」に列挙される「戦略重点科学技術」のうち「資源問題解決の決定打となる希少資源・不足資源代替材料革新技術」の研究推進である。さらに、2006 年6月、資源エネルギー庁から報告された「非鉄金属資源の安定供給確保に向けた戦略」において、①探鉱開発の推進、②リサイクルの推進、③代替材料の開発、④備蓄、等が整理され、現在それぞれにおける具体的な対策が進められている。国内対策と同時に、レアアース資源のない我が国にとって、資源を有する国との関係も重要であり戦略が必要である。

中国のレアアース資源埋蔵量は世界の約3 割を保有すると言われている。さらに、埋蔵量のみならず、レアアースのあらゆる元素がバランスよく高濃度で産出されているのが特徴である。したがって、中国のレアアース生産量は、世界全体の約93%(2005 年)であり、我が国のレアアース供給量の約90%は中国に依存している。

レアアース鉱区は、内モンゴル、四川、江南地区に多く点在しているが、1992 年頃からレアアースの需要が大幅に増大したことから、小規模、低技術レベルの鉱山企業の林立、無秩序な採掘が繰り返された。地元政府が管理強化および採掘技術の近代化をトップダウンで図ったが、ほとんどの鉱山企業では、無秩序な人海戦術による「露天掘り」で採掘を行っているのも事実である。したがって、この30 年で緑豊かだった山林が荒涼とした砂山になり、土砂の流出により生態系が荒廃し、環境破壊が深刻な問題となっている。

一方、2005 年以後、中国の貿易黒字幅が年々拡大しており、諸外国からの人民元切り上げの圧力を受けている。その黒字幅是正の名目で輸出品に対する許可制度強化等の措置を講じているが、これをレアアースに適応し、輸出数量縮小を実行し、レアアースを貴重な戦略的資源ととらえておりしたたかである。実際、昨今の著しい経済発展に伴う環境・エネルギー問題の顕在化を受けて、レアアースおよびタングステン、錫、アンチモン資源保護を強化し、レアアース群のハイテクIT産業への応用を推進する政策を国内外に明確に打ち出している(中華人民共和国国民経済・社会発展第11 次5 カ年(2006-2010)計画要綱)。

環境と経済の両立は世界に共通のハードルである。すでに、日本では環境に対する取り組みは、「省エネ、エコカー減税」等社会共通のコンセプトとなっている。最も近くて、最も多くの資源を有しているが、環境への配慮は少なく貿易黒字である中国に対してどのようなカードで日本はパートナーと成りえるのか?また、中国にとって魅力あるパートナーシップの対象にどうしたら日本は成りえるのか?これは皆で考えなければならない課題である。レアアース資源は、中国に限らず世界中に広く分布していることも事実なので、中国以外の中央アジア、東南アジア、南アフリカと共同探鉱開発を行うことで、隣人である中国のみならず幅広い視点を持ったグローバルな政策展開が求められる。